「キクちゃん、引っ越すんやって」
おかあさんが言うのを聞いて、タカトはおどろいた。キクちゃんはかならずとなりに住んでいて、タカトにとっての主要登場人物だから、引っ越していくなんて、考えたこともなかったし、引っ越すと聞かされても、そんなことがありえるとは思えなかった。
「えっ」
そう言ったきり、だまっているタカトの様子を見て、
「ちょっとショック?」
とお母さんが聞く。
「うーん、ショックっちゅーか、えー、なんか信じられへん」
「そやね、赤ちゃん時からずーっといっしょやったしね」
「いつ引っ越すん?」
「今月の終わりやったと思うわ」
タカトはカレンダーを見る。あと、3週間ほどだ。

「キクちゃん、どこ引っ越すん?」
次の日の朝、学校へ行く途中、タカトはキクに聞いた。
「神戸」
「ふーん、ちょっと遠いな」
「でも、電車で1時間くらいやで、多分」
「なんで引っ越すん?」
「お父さんの仕事の関係」
「ふーん」
「でも、多分、いつか帰ってくると思うけど」
「ほんま?」
「うん、多分」


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