「こいつや」 杏ばあさんは止まった。 「見てみ」 二人は言われたとおり、鏡を上から覗いた。そこに映ってるのは、自分たちの顔でなく、1人の少年だった。ピアノを弾いている。 「へたくそやなあ」 元ピアニストが言った。 「そんな感じやな」 友だちが言った。 「こいつの体を借りたら、弾ける」 杏ばあさんは言った。 「なんで、こいつなん?」 「あたしが決めたんや、文句あるか?」 「えっ、いいえ」 「ほな、こっち来」 「はあ」 「ここに顔近づけて」 元ピアニストは鏡に顔を近づけた。杏ばあさんは元ピアニストの頭をぐっと押した。すると、元ピアニストの体はするするとその手鏡に吸い込まれ、地上に向けて落ちていった。 「うわぁぁぁぁー!」 「えっ、大丈夫?」 友だちは驚いて見ていた。 つづく |