その時とつぜん母さんが部屋に入ってきた。 ぼくはびっくりしていすから落ちそうになった。 むちゅうでひいていたからげんかんの戸が開くのにぜんぜん 気づかなかった。 母さんは言った。 「きいたことない曲ね。いつ練習してたのかしら?」 ぼくはだまっていた。 「ちゃんとレッスンの曲を練習しないとだめでしょ。 まだ間ちがえてばっかりじゃない」 ―げんかいだ― 「もうピアノはやめる! 次のレッスンはもう受けないよ」 ついに言ってしまった。 今まで何度も言いかけてやめたことを。 母さんはぼくの言ったことをのみこめないようで、 しばらくぽかんとしていたけど、次にぜつぼう的な表情になり、 言った。 「何を言ってるの? 今までがんばってきたのに・・・。 やめるなんてそんなかんたんに決めるもんじゃないわ。 分かってる?」 ぼくは何も言わず母さんの横を通りぬけ外へ出て行った。 いいんだ、これで。 別にピアノがひけなくなるわけじゃないし。 ぼくはそう自分に言い聞かせ、あてもなくぶらぶらと歩いた。 |