シマウマの兄弟


ある草原に、見た目りりしく勇敢なシマウマがいた。走るのが速く、一度ライオンにおそわれそうになったときもひるむことなく、キッとにらみつけ、すばやく逃げさった。
このシマウマの弟は兄に比べると体も小さく、勇敢でもなく、皆が兄をほめることをいつもくやしく思っていた。

ある日、シマウマの兄弟が草原を歩いているとき、弟が見たこともない変わった草を見つけた。真っ赤な小さな花をつけている。
「変わった草やなあ」
弟が言うと、兄が顔を向けた。
「ほんまや」
「毒あるんちゃうかなあ」
弟が言った。
「おまえ、怖いん? おれ、食べるで」
怖いもの知らずの兄が言った。
「えっ、やめといた方がいいんちゃう?」
弟はなんとなくいやな予感がした。
「だいじょうぶやて」
兄はその草に食いついた。弟は不安そうに見ている。
「あんまりうまないなあ」
兄は草をのみこむと言った。
「でも、やっぱり毒なんかないわ」
兄はそう言うと、歩き出した。弟はあとをついて行った。

しばらく行くと、メスのシマウマ3頭に会った。メスたちは兄を見て、何かひそひそ言っている。弟はその様子を見ておもしろくない。兄はいつでももてる。だれも自分の方を見ない。メスたちの横を通りすぎ、しばらく行くと弟はおかしなことに気づいた。
兄の足が少し太くなっている。気のせいかなとよく見てみても、やはり太い。気になってじっと見ていると、さらに太くなっていく。弟は恐ろしくなってきた。どうしようか、迷ったが思いきって言った。
「おにいちゃん、足・・・」
兄は立ち止まり、弟を見た。
「何?」
「足が・・・」
兄は弟の足を見て、それから自分の足を見た。
「うわあ!」
兄は叫んだ。
兄が見たのは、いつものひきしまった美しい足ではなく、象のようなずどんと太い足だった。
「なんやこれ! ちょっと足重いなと思たけど・・・」
兄はうずくまり、うなった。
「さっきの草ちゃうか?」
弟はとっさに思いついた。
「草がなんや?」
「やっぱり毒があったんや!」
「足が太なる毒? そんなんあるか?」
兄は絶望的に言った。弟は兄がこんなに弱りきった姿を見たことがない。いつもくやしい思いをしているけれど、さすがに兄がかわいそうに思えてきた。

兄弟がぼうぜんとしていると、そこへ黄色と赤と緑のもようのインコがやってきた。うずくまっている兄の横にくるとおかしそうに笑った。
「もてもてのシマウマくん、どうしたんかな?」
兄はインコをにらみつけた。
「あっちいけ!」
「なんや、ええこと教えたろ思たのに・・・」
弟はインコのことをいやなやつと思ったが、ええことが兄のことかもしれないと気になる。
「ええことって、何?」
だまってる兄にかわってきいた。
「真北へ半日歩いてみ、そこに小さな山があるんや。その山のふもとに小さな小屋がある。そこまで行ったらきっとええことあるで」
「そやから、ええことって何や?」
弟はいらいらした。
「にいちゃんの足なおるかも・・・」
インコはそう言うと飛んでいった。真北へ向かって。
「どういうことやろ?」
弟は考えた。
「なあ、とにかく行ってみよ。他に足なおす方法わからへんやろ?」
「そやな」
兄は立ち上がろうとしたが、いつものように軽やかにはいかない。ゆっくり立ち上がると、力なく言った。
「真北ってどっち?」
「北はあっちの方やけど、真北はどこやろ」
弟は空を見上げた。
「北極星が見えたらわかるんやけど・・・」
まだ、空は明るく星は見えない。
「とりあえず、北に向かって歩こか」
弟は言った。
「うん」
兄は途方にくれて、弱々しく見えた。

歩いているうちに夜になった。北極星が兄弟をみちびく。弟はたまに兄に話しかけるけれど兄はあまりしゃべらない。兄の頭は、足がなおらなかったらどうしようという思いでいっぱいなのでしかたない。
インコが言ったとおり、半日歩いて明け方、小さな山が見えてきた。山に近づくと、小さな小屋もあった。兄弟は小屋の前まできた。すると、戸があいて、中からしわだらけのおばあさんが出てきた。
「待ってたよ」
おばあさんはうれしそうに言うと、兄弟を中へまねきいれた。中には、昼間のインコがいた。
「あっ、おまえ」
弟が言った。
「ああ、この子は私のペット。あんたらを迎えにやらせたんや」
「なんで、足のこと知っとったんや?」
「そら、元気で勇敢なお兄さんにここへきてもらうため、わなをしかけといたから」
「わな? あの草か?」
「そう、あれを食べれば足が太くなる。足の美しかったお兄さんは耐えられへん。そこへインコを行かせて、こっちへくるように教えたんや」
なんというやつ。兄弟に怒りがこみあげてきた。
「私にその元気と勇敢さをくれたら、足をなおしたげる」
「それがおまえのたくらみか?」
「そのとおり。歳いくと、元気とか勇敢さとかそういうのが欲しくなるんや」
兄は悩んだ。弟はどうすればいいかわからない。しばらく考えて兄は言った。
「わかった。あんたのいうとおりにするわ」
おばあさんはよろこんだ。
「では、さっそく」
そう言うと、兄のところへ行き4本の足を順番になでた。なでられた足は、もとどおりの美しい足にもどっていく。
「さあ、すんだ」
おばあさんは笑い出したいのをこらえてるように見える。その表情がいかにも意地きたない感じがする。
「もう用はないよ。はよ帰り」
おばあさんは兄弟を追い出すように帰した。

兄弟は小屋をあとにした。
「見たところ、元どおりやけど、あいつ、おにいちゃんから元気とか勇敢さとか盗んだんやろか?」
弟がきいた。
「いや、わからん。でもなんか、変な感じや」
しばらく歩くと、大きな蛇に出くわした。
「うわっ!」
兄はおどろき、よろめいて、ころびそうになった。以前の兄ならこんな蛇くらい、蹴とばしてしまうくらいだった。やはり、おばあさんの言ったことはほんとだった。

それからの兄は以前とぜんぜん違い、怖がりで元気もなく、別のシマウマのようになってしまった。弟はそんな兄がかわいそうで、なんとかもとどおりにできないかと思っていた。
ある日、夕立があり、稲妻が空を切り裂くのを見て、兄はおびえていた。その姿を見て、弟は決意した。あのおばあさんに会いに行こう。会いに行ってどうするかわからなかったけど、とにかく話をしてみようと思った。
「だいじょうぶか?」
兄は少し心配した。
「だいじょうぶ。おにいちゃん、待っててや」

弟は夕方出発し、また北極星を目印に真北へ向かった。明け方、おばあさんの小屋へたどり着いた。ノックをすると、しばらくして戸が開いた。あやしむように弟を見た。
「なんか用か?」
おばあさんはきいた。どう言えば兄をもとどおりにしてもらえるか、わからずにここまできた弟は、おばあさんの顔を見てひらめいた。
「いやあ、おばあさん、どうなったかなと思って」
「どうなったって?」
「兄から元気と勇敢さをもらって、どんな風になったかや」
「おかげで、50歳は若返った気分やな。生きる気力もまんまんや」
おにいちゃんから大事なものをとりあげて、なんというばあさんや。でも、きっと取り返してやる。弟は心の中で言った。
「そうか、でも、おばあさん・・・あの・・・言いにくいなあ」
「なんや?」
おばあさんは弟の言葉が気になる。
「やっぱり、やめとくわ」
「なんやそれ、はよ言い」
「怒らんといてな・・・おばあさん、なんかおじいさんみたいになった」
「えっ!」
おばあさんの顔がゆがんだ。
「どういう意味や?」
「おばあさんの顔が、おじいさんみたいになったっていう意味」
おばあさんはあわてて壁にかけた鏡をのぞきにいった。
「別にいつもといっしょやけどなあ。 にいさんに元気と勇敢さをもらってから、ちょっと若く見えるようになった気がしてたけど・・・おじいさんみたいってどういうことや?」
「ぼくからみたら、おじいさんに見える。おばあさん、オスのシマウマから元気と勇敢さなんかもらうから、男みたいになってきたんや」
「そんな・・・」
おばあさんは鏡をじっと見つめる。
「顔つきがきつなったし、それでひげでもあったら、かんぺきやで」
おばあさんはたまらなくなった。
「それ以上ゆうなー!」
おばあさんが叫ぶと、口から青い玉が飛び出した。弟はこれが兄の大切なものであると、確信した。そして、その玉を拾うと、兄の待つ場所へかけ出した。おばあさんは、青い玉を出した後、また鏡を見つめ続けた。

弟は長い道のりを急いだ。その日の夕方、兄のところへ帰った。
「おにいちゃん、これ」
弟はそういうと、口に含んでいた青い玉をだした。
「なんやこれ?」
「これが、おにいちゃんの元気と勇敢さにちがいない」
「そうか。ありがとう」
兄は弟を信じ、その玉を飲み込んだ。すると、体中に力がみなぎり、心に勇気が満ちてきた。
「ありがとう。おまえのゆったとおりや」
兄はぐっと体を伸ばし、だっとかけ出した。弟もあとを追った。久しぶりの自信に満ちた兄の姿を見て、弟は本当にうれしかった。
自分が兄より劣っていると思われてもいい、兄は兄らしい方がいい。
「どうやって、これを手に入れたんや?」
兄がきいた。弟は説明した。兄は感心した。
「お前は知恵があるなあ。お前がおらへんかったら、おれはずっともとにもどれへんかったわ」
弟は兄の言葉がうれしかった。少し自信もついた。
「それにしても、おばあさんに向かって、おじいさんみたいなんて、ようゆうたな」
「ほんまにそう見えてんもん」
シマウマの兄弟は笑いながら、草原をかけていった。


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