しあわせって何?
| ジュジュちゃんはある日おかあさんにききました。 |
| 「しあわせって何?」 |
| 「しあわせ? 説明するのむずかしいねえ・・・ |
| じゃあ、たとえ話をしてあげよう。」 |
| おかあさんは話し始めました。 |
| あるところにひとりの女の人がいました。 |
| 女の人は週に2回バレエをしていました。 |
| 小さいころからバレエが好きでずっとつづけてきたのです。 |
| ある日、練習中に足にけがをしました。 |
| いつものけがとはちょっとちがって大けがです。 |
| 1ヶ月も入院しました。 |
| 退院してからしばらくしてまた少しずつバレエの練習をはじめました。 |
| でもこういしょうが残っていてうまく踊れません。 |
| つま先で立つと足がいたむのです。 |
| それでもバレエをしたかったからずっと練習をつづけました。 |
| 無理がよくなかったのか、また同じところにけがをしてしまいました。 |
| そしてまた入院しました。 |
| 「かわいそう。」ジュジュちゃんは思わず言いました。 |
| これ以上バレエをつづけると、 |
| 一生足がなおらないかもしれないよ |
| お医者さんは女の人に言いました。 |
| 女の人はなやみました。 |
| つらくて泣きそうになりました。 |
| そんなときある男の人が女の人をなぐさめました。 |
| 男の人もけがをして入院していたのです。 |
| 女の人はつらい気持を男の人に聞いてもらいました。 |
| そのうちいろいろな話をするようになりました。 |
| 悲しい話ばかりでなく、楽しい話もするようになったのです。 |
| 男の人は先に退院しましたが、たびたび女の人のお見舞いにきました。 |
| 女の人は少しずつ気持が楽になっていきました。 |
| 「よかったね。」ジュジュちゃんはにこっとしました。 |
| 女の人は退院すると、ついにバレエをやめる決心をしました。 |
| 男の人と話しているうちに |
| もっと他のことにもちょうせんしようと思うようになったのです。 |
| そして前から少し興味があった絵をかきはじめました。 |
| 毎日かきたいと思うものをどんどんかきました。 |
| 休みの日に男の人といっしょに山や海へ出かけ、 |
| ながめのいい場所にこしかけて景色をかいたり、 |
| 男の人をかいたりしました。 |
| 男の人は女の人の絵がどんどんうまくなっていくことに気がつきました。 |
| 女の人はバレエをしていた時とは違う喜びを、絵をかくという楽しみを |
| 知ることができるようになったのです。 |
| 女の人は男の人と出会ったことを感謝しました。 |
| 男の人のおかげでつらい時期をのりこえ、 |
| 新しい喜びを見つけることができたと思いました。 |
| 「もしかして、それがしあわせ?」ジュジュちゃんが待ちきれず聞きました。 |
| 「そうねえ、このとき女の人はしあわせを感じたと思うけどまだ続きがあるの。」 |
| 「何?何?」 |
| 女の人は男の人にすすめられ、 |
| 小さな場所をかりて個展をひらくことにしました。 |
| そのための絵を10枚かくことにしました。 |
| 「個展って何?」 |
| 「絵をかざってたくさんの人に見てもらうの。」 |
| 3枚目の絵をかきおえた時、 |
| 女の人は男の人に思いもよらぬことを聞かされました。 |
| 男の人はお父さんの仕事を手伝うためもうすぐ外国へ行くというのです。 |
| 飛行機で10時間以上もかかるところです。 |
| ジュジュちゃんの顔がくもりました。 |
| 男の人の話を聞いて女の人は筆をおきました。 |
| それから何日も女の人は絵をかきたいという気持がおこりませんでした。 |
| とうとうお別れの日がきました。 |
| 男の人は言いました。 |
| お願いだからまた絵をかいて。きみのかく絵が大好きだから。 |
| 女の人はきっとかくと言いました。 |
| でもしばらく悲しみのあまりかく気にはなれませんでした。 |
| 男の人が行ってしまってから1週間して手紙がきました。 |
| はなれてしまってさびしい気持、外国で心ぼそく思っていることが |
| 書かれていました。 |
| 女の人は手紙を読みながら胸が苦しくなりました。 |
| 男の人に会いたくなったのです。 |
| そして手紙の最後、便せんの下のところにに男の人がかいた絵に |
| 目がとまりました。 |
| 男の人が今住んでいる町の景色のようです。 |
| 色えんぴつでかかれた絵は決して上手ではありませんでしたが、 |
| 女の人はその絵を見ていると男の人が住んでいる町を想像することができ、 |
| 胸があつくなりました。 |
| そしてその時、もう一度絵をかこうと思ったのです。 |
| 「よかった。」ジュジュちゃんはにこっとしました。 |
| 女の人は男の人に返事を書きました。 |
| 会えなくてさびしい気持、もう一度絵をかきたくなったこと。 |
| そして色えんぴつでかいた絵を一枚そえました。 |
| 二人でいっしょによく行った公園のようすをかいたものです。 |
| しばらくして男の人から返事がきました。 |
| 男の人は女の人がまた絵をかく気持になったことをよろこんでいました。 |
| そして公園の絵を見てなつかしくなり帰りたくなったと書いてありました。 |
| そしてまた絵がかかれていました。 |
| 男の人が今住んでいる家の絵です。 |
| 女の人はその絵を見てよろこびました。 |
| 男の人がどんな所にすんでいるか想像することができたからです。 |
| 女の人はまた手紙を書きました。 |
| 個展のため10枚かく予定だった絵の4枚目の絵が完成したこと、 |
| 犬をかいはじめたこと。 |
| そして今度はその犬の絵をそえました。 |
| そんなふうに女の人と男の人は手紙のやりとりをして |
| いろんなことを伝え合いました。 |
| ところが・・・ |
| 「どうしたの?」ジュジュちゃんが心配そうにききます。 |
| あるころからぱったりと男の人の手紙がこなくなったのです。 |
| 女の人は心配でたまらなくなりました。 |
| 思い切って電話をしてみました。 |
| だれもでません。 |
| いったい男の人はどうしてしまったのか。 |
| 女の人はあれこれ想像をしてなやみました。 |
| もうわたしのことをわすれてしまったのかな? |
| 女の人はまた絵をかくのをやめてしまいました。 |
| 1ヶ月ほどたちました。 |
| 女の人は男の人に会いに行く決心をしました。 |
| そのためにおとうさんからお金をかりました。 |
| 長い時間飛行機にのり、男の人のいる国につくと |
| 地図を見ながら家をさがしました。 |
| まよいながらようやくたどりつきました。 |
| 家にはだれもいません。 |
| 仕方がないので家の前で待つことにしました。 |
| 夜になりました。 |
| ようやくだれかが帰ってきました。 |
| 男の人のおとうさんです。 |
| おとうさんはとてもおどろきました。 |
| 女の人のことは知っていましたが、 |
| まさか会いにくるとは思っていなかったのです。 |
| 男の人は入院していることがわかりました。 |
| 女の人はひどくショックをうけました。 |
| 次の日女の人は男の人のおとうさんといっしょに病院に行きました。 |
| 男の人はねむっていました。 |
| やせて、顔色もあまりよくありません。 |
| 女の人は泣きました。 |
| 男の人が死んでしまうのではと思えたのです。 |
| ジュジュちゃんはおかあさんの手をにぎります。 |
| 男の人はしばらくして目をさましました。 |
| そして女の人を見つけると目を見ひらきました。 |
| 信じられないほどうれしかったのです。 |
| 男の人の目からはみるみる涙があふれました。 |
| その日から男の人は少しずつ元気になっていきました。 |
| 女の人は毎日病院に通い、男の人のそばにいました。 |
| 男の人は最初のうちはねむっていることが多かったのですが、 |
| 少しずつ起きている時間が長くなりました。 |
| 起きている間は二人でいろんな話をしました。 |
| 女の人はとまっているホテルの近くの景色がとても気に入ったので |
| スケッチをして男の人にプレゼントしました。 |
| 男の人は喜んで、その絵をベッドのそばに置きました。 |
| あっという間に10日がたちました。 |
| 女の人はもうホテルにとまるお金が残っていないので |
| 帰らなくてはならなくなりました。 |
| 男の人はとても残念がりましたが、もう病気はだいぶよくなっていました。 |
| ありがとう。今度はぼくがきみに会いに行くよと男の人は言いました。 |
| 二人はさよならしました。 |
| それからまた二人は手紙を出し合いました。 |
| たまに電話もしました。 |
| さびしいけれど、二人の心は前よりも強くむすばれているようでした。 |
| 女の人は個展のための絵を9枚かきあげました。 |
| 10枚目の絵を何にしようか考えました。 |
| 目をつぶると男の人のいる国の風景がうかんできました。 |
| そして大好きだったホテルからの景色も。 |
| 女の人は急いでスケッチブックをとりだしました。 |
| そして今頭の中に広がる情景をかきはじめました。 |
| 何枚も何枚も。 |
| そしてついに作品のイメージができあがりました。 |
| 男の人は女の人の個展を必ず見に帰ってくると約束しました。 |
| 個展がはじまりました。 |
| 毎日何人かのお客さんがやってきました。 |
| 女の人は男の人がやってくるのを心待ちにしていました。 |
| 1週間たち個展の最後の日になりました。 |
| 女の人は男の人がやってこないのではと不安になりました。 |
| ずっと前にぱったりと手紙がこなくなったことを思い出したのです。 |
| お客さんがくるたびにどきどきしました。 |
| ついに個展は終ってしまいました。 |
| 女の人は最後のお客さんを見送ると、かたづけを始めました。 |
| もしかしてまた病気になったのかな。 |
| いやなことばかり思い浮かびます。 |
| 女の人はがっくりして10枚目の絵の前にすわりぼんやりとながめていました。 |
| もう一度行ってみようかな。 |
| その時、とつぜんがたがたという音がして女の人はびくっとしました。 |
| いきおいよく開いたとびらから男の人がとび込んできたのです。 |
| 間に合った? |
| 女の人がどれほどうれしかったかわかる? |
| 「うん。わかる。」ジュジュちゃんは言いました。 |
| 男の人はじっくり10枚の絵を見ました。 |
| そして最後の絵、遠い外国のある景色をじっと見つめました。 |
| 男の人は言いました。 |
| もうこれからはずっといっしょにいよう。 |
| 女の人のこたえはもうわかるわね。 |
| 二人は結婚式の日、もうはなれなくていいとよろこびました。 |
| これからはどこへ行くにもいっしょに行ける。 |
| 「それがしあわせね。」ジュジュちゃんがうれしそうに言いました。 |
| 「そう、でもまだ続きがあるの。」 |
| 「えー?」 |
| 二人は結婚してしあわせでした。 |
| そして1年後もっとしあわせになりました。 |
| 赤ちゃんが生まれたのです。 |
| 二人は赤ちゃんにジュジュという名前をつけました。 |
| 「えー、やっぱり! |
| わたし10枚目の絵の話のとき、おかあさんがかいた絵を想像してたの。 |
| おとうさんとおかあさんの話だったのね。」 |
| ジュジュちゃんはいそいでろうかにかざってある絵を見に行きました。 |
| 「わたし、この外国の風景の絵、大好きなの。」 |
| おしまい |