ココちゃん

わたしはにんぎょう
だけどふつうのにんぎょうじゃない
しゃべりかけられると返事ができる
「うん」

「ううん」
だけだけれど
大きな声には「うん」と
ちいさな声には「ううん」と返事をする

わたしはある理由でとても有名になった
テレビでとても人気者の女の子が
わたしと同じにんぎょうを持っていて
それを抱いてテレビにでたから
その上 しゃべりかけると
返事をするとわかったから

テレビ局に問い合わせがさっとうした
おおぜいの女の子が
わたしと同じにんぎょうを欲しがった
わたしと同じにんぎょうがたくさん作られた
そしていろんな店に並べられ
つぎつぎ買われていった

わたしはある町の雑貨屋に置かれていた
わたしのまわりには
わたしと同じにんぎょうが10こくらい
ならべられている
わたしは2列にならべられたにんぎょうの
2列がわ
つまりうしろがわに座っている
わたしの前に置かれているにんぎょうが売れると
その場所にまた新しいにんぎょうが置かれた

毎日のように1列目のにんぎょうの
どれかが買われていく
そのたびに新しいにんぎょうがくる
それで1ヶ月ほどたっても
わたしはまだ同じ場所に座っていた

きょうも
女の子がおかあさんといっしょにやってきて
うれしそうにわたしのななめ前のにんぎょうを
ひょいと持ち上げるとぎゅっと抱きしめ
「ココちゃん」
と大きな声でよびかけた
「・・・・・」
「あれ?返事しないよ おかあさん」
「ああ 電池をいれないとね」
「あっそうか」
女の子は大事そうにココちゃんを抱いて
帰っていった

ココちゃん
そう わたしもココちゃん
同じ姿なのに
なぜかわたしにはだれも気づいてくれない
ちょっとさびしい
その時 一人の女の子がお店に入ってきた
はあはあと息をきらしている
それからわたしたちのいるたなの前まできて
じっと見ている
気のせいだと思うけど
わたしを見てるような感じがする

女の子はしばらく見ていたけど
お店のおねえさんが
「ココちゃんとってあげようか?」
と話しかけると
首を横にふり走って出ていってしまった
わたしはちょっとがっかりしてしまった

3ヶ月ほどたった
最近 前ほどわたしの仲間も売れなくなった
お店にくる子どもたちももうあまり私たちに
興味をもたなくなったよう
たまに売れても
もう新しいココちゃんはやってこない
それより1週間ほど前にお店にやってきた
しゃべりかけると
笑ったり 泣いたりするにんぎょうに
みんなは夢中だ

あるおかあさんが
「ココちゃんブームもおわりね
今はやっぱりポンくんよね」
といいながら
ポンくんを子どもに買っているのを見て
悲しくなってしまった
わたしたちってそんなにねうちがないの?
どうしてみんな
そんなに早く気が変わってしまうの?
わたしにはわからない

ある日の閉店まぎわお店の店長が
「そろそろココちゃんも
ほかの商品と置きかえないとね」
とお店のおねさんたちに言っている時
一人の女の子がお店にとびこんできた
ああ 前にもこんなふうにやってきた子だ
とすぐわかった

その時すでにココちゃんは
私を入れて3こしか残っていなかった
女の子はまっすぐに
わたしのいるたなの前までくると
わたしを見つめそっと抱き上げた
そして
「これ ください」
ときっぱりとした声で言った

「あなた運がいいわね
もうすぐココちゃんはいなくなるところだったのよ」
それを聞くと女の子はちょっと不安げな顔をして
わたしをぎゅうっと抱きしめた
そうしてわたしは
ついにお店から出ていくことになった
残ってしまったあと2このココちゃんのことが
ちょっときがかりだった

「わたしはマナ よろしくね」
と大きな声で女の子が話しかける
「・・・・・」
「そうか 電池をいれなくちゃね」
マナちゃんはうれしそうに
わたしを抱いて帰っていった
「ありがとう」
わたしは心の中で言った
電池を入れてもらっても言えない言葉を・・・