次の日の夜、とうさんとかあさんは
コンサートに出かけた。
ぼくは早い夕はんをすますと、
かがみの前に行った。
「ねえ、きみ!なまえ聞いてなかった
からよびにくいなあ。ねえ、きみ!」
ぼくはノックしながらよびかけた。
かがみは前と同じようにそっと開いた。
女の子が立っていた。
ほっぺはまだ少しピンク色がかって
いる。
「昨日いいそびれたんだけど、きみの
ほっぺすこしピンクになっているよ」
ぼくは何よりそれを言いたかった。
「ほんと?」女の子はおどろいた。
「ところで、
きみの名前はなんていうの?」
「ナナコ」
「じゃあ・・・ナナコちゃんってよぶよ?」
「いいわ」ナナコちゃんはうれしそうな顔をした。
「あなたの名前は?」
「ぼくは、シンジ。それより今ならナナコちゃんのところへ行ってピアノをひけるよ」
「ほんとなの?うれしいわ。じゃあこっちに来て」
ぼくはちょっとためらった。もしかしてもう二度ともとの世界へもどれなくなるんじゃないだろうかという不安がよぎった。
ナナコちゃんはぼくの不安に気づいたように、
「大丈夫よ。ちゃんとあなたのところへもどれるから」と言った。
ぼくはナナコちゃんの言葉を信じることにした。


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